2024年7月26日金曜日

救えなかった人たち

ふいに今は亡きNさんのことを思い出した。

何不自由なく育った世間知らずのお嬢様だった彼女は

高学歴と資産を求めて結婚したものの、相手は生活不適合者だった。

両親は帰ってこいと言ったのに、世間体を気にして婚家にとどまった。

女は我慢するもの。

離婚など、滅多なことではできない時代だった。

すでに妊娠していたこともあったろう。

あの時代、女手一つで子供を育てるなどNさんには考えられなかった。

いちども働いたことがなかったから。

自分さえ我慢してここにいれば、食うに困らぬ金はある。


それから40年・・・

彼女は耐えた。

ストレスを趣味にぶつけ、買い物で発散しながら・・・

長い間、私は彼女のことを幸せな人だと思っていた。

いつも綺麗な服を着て、花や舞踊の稽古に通い、友達とお出かけ。

一粒種の息子は成績優秀で、彼女は塾の授業料が免除になったと自慢していた。

何事も順風満帆。生活不適合者の夫などそっとしておけばいい。

我が世の春を楽しんでいるようだった。


しかし、そんな彼女の生活に翳りが見え始めた。

同居していた叔母が亡くなり、彼女の使い込みが発覚。

資産の殆どが消えていたことを知る。

夫は事故が元で仕事を失う。自慢の息子は希望の会社に就職できず、2浪。

唯一の収入源であったマンションも老朽化。空き家対策をする手立ても思い浮かばない。

何くれとなく面倒を見てくれていた実家の父親が亡くなり、後ろ盾を失った彼女は

崩壊した。

将来への不安から心神喪失を経て鬱になり、入院。

はじめは甲斐甲斐しく看病していた息子だったが、折悪く苦労して入った会社と合わず

自身も精神を病んでいった・・・


しんどがっている人にかける言葉は何が良かったのか。

それから数年にわたり、彼女たちに寄り添っていたつもりだったが

十分ではなかった。

結局、2人を救うことはできなかった。



今また同じような人が現れて、どう対処しようかと悩んでいる。

Mさんは大きな心配事を抱えている。それで眠れないという。

すがるような目で、もう1週間以上寝ていないという。

また同じ過ちを犯したくない。

なんとか救わねばと思うけれど・・・


大きな渦の中に、もがきながらどんどん沈んでいくMさんは

こちらの手をつかもうとしない。

どこまでも自分自身の力で這いあがりたいのだ。

私はまたしても見ているだけしかないのか。



私も眠れない・・・









壊れはじめた

Mさんが入院することになったと告げたのに 話はうわの空。 母は 来客予定の人のことで頭がいっぱい。 自室にいたらピンポンが聞こえないからと インターホンの前に陣取って耳を澄ませている。 頭の中は自分のことだけ。 他人のことなんかもうどうでもいいんだな。 私がMさんのことで急遽出か...